眠れぬ王子の恋する場所


それからというもの、久遠さんの呼び出しが頻繁に入るようになった。

社長を通すから仕事としてだし、変なこともされないから別に構わないとはいえ……。

呼び出されても、そのほとんどがただ一緒に時間を過ごすだけなのにお金をもらうのは、なんだかすごく申し訳ない気がしてしまう。

それを、お昼ごはんを食べながら社長にこぼしたら笑われてしまった。

「久遠にとって、一緒にいて苦痛じゃない相手ってすげー限られるんだよ。俺が知る限りだと俺くらいしかいないんじゃねーかな」

「え……そんなに? ちなみに吉井さんは? 吉井さんも他人と一緒にいるの苦痛そうですけど」

向かいの席に座ってピザを食べている吉井さんに聞く。

今日のお昼ごはんは、社長のおごりで宅配ピザだ。
一枚頼むと二枚目が無料っていうキャンペーン中だから仕方なくおごってやる、と朝一番に偉そうに言われて。

みみの部分にまでチーズがたっぷりなピザは、私と吉井さんふたりがかりで食べてやっと一枚完食できるかなってくらいにボリュームがあった。

吉井さんのデスクには、ピザだけじゃ栄養が偏りそうだからと私が差し入れたパックの野菜ジュースが置いてある。

『にんじんベース苦手なのに……』とか文句を言ってたけど、きちんと飲んでいるようで、よしよしと心の中で思う。

久遠さんもだけど、吉井さんも栄養管理をしてあげないとそのうち倒れる類の人だ。

そんな吉井さんは、わずかに眉を寄せ私の問いに答える。



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