眠れぬ王子の恋する場所
「吉井さんほどじゃないですけど……私と同じくらいだったし、男の人にしては食が細いですよね。一緒にいると、私の食べてるものをつまんだりしてますけど、ひとりの時とか水だけで過ごしてそうなイメージあります」
「高校んときとか、学食行ってもダイエット中の女子みたいな量しか食わなかったからなぁ。あんまり食に対してのこだわりもなさそうだし。
もったいねぇよなー。金あるんだから、うまいもん食べようとすれば食べられんのに」
そういえば、クロワッサンのことも知らなそうだったしなぁと思う。
高校のころからあんな感じだったのか……。
しかも、友達全然いなかったのかと思うと、不憫に思えてしまって仕方ない。
どう考えても私に同情されるような立場の人じゃないのに。
「まぁ、とにかくあれだ。おまえのことはなんでだか気に入ってるみたいだし、よくしてやってくれよな」
〝久遠さんの友達〟として言ってくる社長に「仕事なのでちゃんとします」と答え目を逸らす。
私には一緒にパズルをしたり、どうでもいい話をするくらいしかできないけれど。
お茶くらいならおいしく淹れてあげようと思った。
百均で買った急須に、特に高くもない茶葉を入れ、お湯をそそぐ。
しばらく蒸したあと、ティーカップにコポコポと注ぐと、緑茶のいい香りがふわっと空気に混ざった。
濃い緑色はティーパックでは決して出せない濃さだ。
久遠さんにお茶を淹れ始めてから少しして気付いたけれど、久遠さんはどうやら濃い目が好きらしい。
目の疲れや充血にどれだけの効果を発しているかは定かではないけど、まぁ、私的には、飲まないよりはいいだろうって程度の意識だし、久遠さんについてはもう、ただ味が好みってだけだと思う。
「はい。お茶」
ローテーブルの前。いつもの定位置に座った久遠さんが、淹れたばかりの緑茶に手を伸ばす。
ずず……と熱いお茶を飲む姿を眺めて、私も自分のティーカップを口に運んだ。