眠れぬ王子の恋する場所
「あー……そういや、三ノ宮ってやたらモテんのによく冷たいって振られてたな。それが原因だったのか」
「へぇ。モテてたんですか。意外」
緑茶の香りが部屋をゆっくりと包んでいく。
まだ高い位置にある太陽は、夏の本領を発揮し、じりじりと熱を持った日差しを室内に届けていた。
この部屋はいつでも空調が効いているからいいけれど、ここまで日差しが強いと外に出るのが嫌になる。
外は暑いのに電車の中は冷房地獄だしで、体温調整が毎日大変なのは、もう夏の現代病として注意喚起してもいいと思う。
「あいつは、男にも女にも人気があって常に誰かが周りにいたけど、そんなやつでも二時間が限界とか思うんだな」
静かな声で言われ、視線を移す。
昔のことでも思い出しているのか、久遠さんはぼんやりとした顔をしていた。
「そんな風に言うってことは、久遠さんもそう思うってことですか?」
「……いや、そもそもそんな長時間、プライベートで他人といたことねーし」
まるで、思い当ることがない、とでも言いたそうな顔で言われ、首を傾げそうになる。
今のこの時間は……?と言いたくなったけど、これは久遠さんのなかではプライベートってことにはならないのかと結論付ける。
私的には、仕事と言えど、ただ話してお茶入れているだけだからついつい忘れちゃうけれど、お金も発生しているわけだし。
そんな風に思い、白いティーカップに口をつけていた時。
久遠さんがぼそりと言った。
「おまえが同じ空間にいるのは、不思議と気になんねーけど」
抑揚がまったく感じられない声で言われ、思わず言葉を失った。
そんな私なんて気にする様子もなく、お茶を飲み終わった久遠さんは、カップをかちゃりとソーサーに置くと、こちらに視線を寄こす。