眠れぬ王子の恋する場所
突然出された名前に思わずうろたえてしまう。
こんなこと、バレたら絶対にまずい……と内心焦っていると、社長はそんな私には気付かずに、煙草に火をつけながら続ける。
「あいつ神経質だし口悪いから、ケンカしたとか頭にくること言われたとか」
なんだそういう意味かと胸を撫で下ろしながら、口を開く。
「久遠さんが性格悪いことも神経質なのもわかってるので、もういちいち気にしないから大丈夫です。……でも、社長、私ここ二週間くらいずっと久遠さんとこに行ってますけど、他の仕事回ってるんですか?」
社長と吉井さんでほとんどの仕事は回せるかもしれないけれど、彼女役だとか、女性である私にしかできないこともある。
だけど私はこの二週間、久遠さん以外からの依頼を受けていないし……たまたまそういう依頼がきていないだけだろうか。
そう思い聞くと、社長は「あー、それだけどなー」と煙を吐きながら言う。
「やっぱり、女手は欲しいから、昨日面接してひとり雇ったんだよ。おまえは久遠のところで忙しいし」
「え……そうなんですか?」
初耳なだけに驚くと「バイトだけどな」と返される。
「いつまで久遠の依頼が続くかわかんねーから、一応、二ヶ月の短期で募集かけたんだ。時間も、佐和が席を外す昼前から夕方指定にしたから、応募こねーかなって思ってたけど、昨日電話がきて、それで」
「へぇ……。でも、そこまでしなくても、久遠さんって社長の友達なんだし、社長が会社帰りに毎日顔出せばいい気もするんですけど」