眠れぬ王子の恋する場所
久遠さんの様子を見ている限り、別に私じゃなくてもいい気もする。
人見知り……というか人当たりがキツイから、ナイーブな人じゃ務まらないにしても、社長なら友達なんだし。
社長だって、どうしても久遠さんから依頼をとりたいわけでもないだろうし……と思い言うと、複雑な笑みを浮かべられた。
「まぁ、詳しい話は今日昼飯食べながらでもするか。久遠には午後一から行かせるって伝えとくから、昼、ちょっと付き合え」
そう言い、煙草をギュッと灰皿に押し付けた社長に「社長のおごりなら」と返し、パソコンを起動させた。
社長が連れて行ってくれたのは、久遠さんが泊まっているホテルの最上階にあるレストランだった。
オフホワイトのタイルの上に置かれているのは、木製の四角いテーブル。
それを挟むようにひとり掛けのソファがふたつ。
広いスペースをゆったりと使っているから、見た感じでは席数は二十席ほど。
隣の席との感覚をファミレスくらいにすれば、今の倍は入るんじゃないかな、と考えてから自分に苦笑いを浮かべる。
こんな高級ホテルのレストランにくるような人はきっと、このゆったりとした空間を楽しみにくるんだろう。
なんでも詰め込めばいいなんて考え方はよくない。
高い天井は、オフホワイトと濃いブラウンの二色が色んな形に入り混じり、まるで現代アートのようだった。
ミルクが落ちた衝撃で飛び散ったコーヒーのように見える場所もあれば、万華鏡でも覗きこんだみたいな部分もあり、しばらく見ていても飽きなそうだなと思う。
社長が連れて行ってくれるお店なんて絶対にラーメンとかだと思っていた私は、思い切りうろたえながら社長のうしろを歩き……ボーイさんに案内された席にまた驚いてしまった。
だって、一番奥の窓際っていう、たぶんとてもいい席だったから。