眠れぬ王子の恋する場所


お客さんの年齢層は結構高くて、上品なおばさまや老夫婦が目立つから、ますます社長のお財布が心配になってしまう。

社長がランチセットらしきものをボーイさんに注文を終えたところで、テーブルに身を乗り出し小声で言う。

「社長、ここ絶対高いですけど大丈夫ですか?」

向かいに座っている社長は、ニヤッと口の端を上げ「ここをどこだと思ってんだよ」と答えた。

「久遠んとこが経営してるホテルだろ。手なら回してある」

そう言った社長が、人差し指と中指に挟んで見せたのは映画のチケットのような大きさの紙だった。

『お食事券』と書いてあるその券を胸ポケットにしまいながら社長が説明する。

「昨日の夜、久遠にもらったんだよ。話の流れで、このレストランの割引券とかねーのかって聞いたら、無言でこれくれたんだけど、裏に一万円まで無料になるって書いてあった。いいよなぁ、ホテル持ってると」
「え、昨日……?」

昨日、あの部屋で久遠さんとしたことを考え、ギクリと心臓が鳴る。

そんな私に、珍しく目ざとく気付いた社長が「なんだよ、なにかあったか?」とニヤニヤするから、目をすっと逸らした。

「いえ……。ちょっと久遠さんに痛いとこつかれて怒鳴っちゃっただけです」

もごもごと言うと、社長は「あいつは言葉選ばないからなー」とははっと笑うから、こっそり胸を撫で下ろす。

久遠さんも何も言わなかったみたいだし、バレてはいないみたいだ。



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