眠れぬ王子の恋する場所
その笑みがなんだか意味ありげに感じて、気まずさを覚えて目を逸らした。
そんな、久遠さんにとって私は特別みたいなことを暗に言われても困る。
「久遠さんはたしかに気難しいですけど、深入りしてこない性格で、ある程度の距離感保ってくれる人ならそれでよかったんだと思います。たぶん、吉井さんとでもうまくやりますよ」
決して、私を気に入っているだとか、特別だとかそういうわけじゃない。
それを伝えたくて言うと、社長は呆れたような顔をしてケタケタと笑う。
「ある程度の距離感って、吉井の面倒あれだけみてるヤツがよく言う」
「……現実と理想は異なるものなんですよ」
吉井さんへの世話焼きを指摘されると、たしかに距離感の話は矛盾していたなと思いぼそりと言う。
でも……そうか。距離感を保っているつもりだったけど、考えてみれば結構踏み込んでしまっていたかもしれない。
吉井さんにだけじゃなく、久遠さんにも。
私が仕事として頼まれたのは、久遠さんの様子を見るってだけだったのに、睡眠障害を気にしたり、お茶を用意したり……まぁ、久遠さんもそんなに嫌そうじゃなかったし問題ないか。
しかめっ面はしてたけど、あれはあの人のデフォルトだし。
だいたい、嫌だったら嫌だと素直に言う人だし。
「理想? あー、そういやおまえ、もう誰も信じないとか言ってたっけ。元彼にひどい裏切り方されたから」
笑いながらする話でもないんですけど、と心の中でだけ文句を言い、天井を眺める。
お店に入ったときから感じていたけれど、天井が高い。
このホテルの客室の倍以上の高さがありそうだった。