眠れぬ王子の恋する場所


「あの、ご馳走様でした。あんな雰囲気のいい場所でランチするなんて機会、滅多にないので嬉しかったです。景色も天井も綺麗でした」

社長がたかったとしても、久遠さんからもらった券があったからできたランチだ。

そう思いお礼を言うと、久遠さんはわずかに顔をしかめ後ろ頭をかく。

「別に……。ただおまえが昨日怒ったり傷ついたりしてたみたいだったから」

なんでそこに昨日のことがでてくるんだろう……と不思議に思っていると、久遠さんは私をチラッと見たあと、目を逸らし言う。

「どっちにしろ、俺が言ったことが原因なんだろうし。傷つけたなら悪いと思ったし、なにすればいいのか考えてたら、三ノ宮が来たから……それで。
おまえが喜びそうなこととか、飯以外思いつかなかったから」

バツが悪そうに言われ……思わず黙ってしまった。

だって、昨日のことに責任を感じてくれているなんて思いもしなかったから。

「今まで必要以上に一緒にいたヤツって三ノ宮だけだし……あいつは何言ってもヘラヘラしてて怒らねーから、言い合いになったことはなかった。だから、誰かの機嫌をとる方法なんて知らな……」

久遠さんがボソボソと言うのを「待ってください」と慌てて止める。

こちらをじっと見る久遠さんを見つめながら口を開いた。

「昨日のことなら……その、久遠さんが悪いわけじゃありません。たしかに、久遠さんは言葉を選ばないからイラッともきますけど……図星をつかれて私が勝手に怒っただけです。私が悪いんです」

久遠さんの言葉は間違ってなんかいなかった。





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