眠れぬ王子の恋する場所
「私のお詫びなのに、なんで久遠さんに払わせるんですか。社長と一緒にしないでください」
「いや、俺のは久遠に頼まれたも同然だろ。あいつがおまえを怒らせたっぽいってぶつぶつ言ってたから、俺は協力してやっただけだし」
言われてみればそうなのか……と思っていると社長がニヤニヤしながら言う。
「ちゃんと仲直りできたか?」
「……まぁ。たぶん」
好奇の眼差しがうっとうしくて、目を逸らしながらもごもご言う。
昨日、久遠さんはあのあとルームサービスでデザートを頼んでくれた。
話の中で私が、デザートを食べられなかったって言ったかららしい。
『そういうつもりじゃなくて……それにそれは今度私がおごるって言ったじゃないですか』と慌てると、電話を耳にあてた久遠さんに『それはそれとしてでいいだろ』と言い切られてしまった。
そして、運ばれてきた豪華なデザートのなかに、お土産に選んだプリンもあったというわけだ。
帰りがけに、お土産用に頼もうとメニューを見せてもらって、並んだ金額に一瞬、声を失ったのは言うまでもない。
昨日、私の胃に入った総額は、たぶん、今まで生きてきた中で一番高額だったと思う。
「なんだか今日、冷房効きすぎてません?」
いつもよりも冷えている気がして聞いたけれど、吉井さんは首を傾げる。
「いや、普通だけど……佐和さん、なんか寒そうだね。顔、白いし。冷房病?」
「ですかね。電車が結構冷えてるからそれでかなぁ」とぶつぶつ言っていると、社長が「そういや」と話し出す。
「石坂、久遠に興味津々だったなぁ」
煙草に火をつけながら言う社長に「え、久遠さんの名前出したんですか?」と驚くと、吉井さんが「俺と社長の会話聞いてグイグイきたんだよ」と答える。
だるそうな顔でバッグからタブレットを出した吉井さんが続ける。