眠れぬ王子の恋する場所


「昨日、佐和さん直帰だったから俺がそれぞれの報告書まとめてたんだけど。
その中で、佐和さんの仕事内容で一度だけ久遠さんの名前出しただけなのに、〝久遠ってもしかして久遠財閥ですか?!〟とか言ってきて」

吉井さんは、はぁ……とひとつため息をつく。

「俺と社長の仕事の会話に平気で割り込んでくるところにもだけど、それ以上に、久遠って名前ひとつで久遠財閥に直結させる脳みそに驚愕した。
石坂さんって、自分の知ってることだけで世界が回ってるとでも思ってるのかな」

最後、結構な毒を吐いた吉井さんに社長が「たしかにな」と笑う。

「吉井が教えてやれよ。石坂、言葉厳しくても響かなそうだし気遣わずに話せるだろ」
「絶対に嫌ですよ。俺、もう石坂さんとは必要最低限しか話したくないです。社長が雇ったんだから社長が教育するべきでしょ」

「えー、俺も苦手だもん。無理」
「三十手前男の〝だもん〟とか超ウケるー」

吉井さんの棒読みが終わったところで「ふざけたこと言ってないで、本当にどうするんですか」と話を戻す。

いつまでも押し付け合ってても話が終わらない。

「そもそも、石坂さん、そんな感じで依頼とか受けられるんですか?」

聞いている限り、態度はひどいし、依頼人にもそんな感じで言ったら怒られそうだ。
そう思い聞くと、「あー、それはたぶん大丈夫だ」と社長が言う。

「ああいうタイプは普段から男騙しているぶん、演技力とか高いし。本人も騙し慣れてるって言ってたしな」
「〝男騙してる〟とか、本人が言ったんですか? 面接で?」

そんなことカミングアウトしちゃったら面接結果に不利に働きそうだけど……と考え引っかかっていると、吉井さんが「そういうこと言えちゃう人なんだよ」と嫌そうな声を出す。



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