眠れぬ王子の恋する場所
「佐和さんはまだ本人知らないから、面接でそんなこと言うなんてありえないとか思うんだろうけど。後先考えないっていうか、今が楽しければオッケー的な感じの人だから。
〝男騙してる〟って話だって、罪悪感とかなしに楽しんでやってそうだし。〝騙される男が悪いんだしー〟とか笑って言えるタイプ」
「……吉井さん、本当に石坂さんが苦手なんですね」
吉井さんがこんなに語るのは珍しいから、相当合わないタイプなんだろう。
「まぁ、そんな煙たがるなって。ホストクラブ通いが趣味だとかで金が必要だって言ってたし、仕事はちゃんとするだろ」
呑気に言う社長に「ホスト……」と、吉井さんと私の呆れたような声が重なったところで、ガチャリとドアが開き……「おはようございまーす!」という元気な声が聞こえてきた。
振り向くと、白いサマーニットのミニワンピースを着た、若い女の子がにっこりと笑顔を浮かべていた。
ウエストに赤いチェックのシャツを巻いていて、足元はヒールの高いサンダルを履いている。
腰まで伸びた髪は明るい茶髪でふわりとしたゆるいウェーブがかかっていて……服装も髪型も派手だけど、一番派手なのはメイクだと思う。
ギャル、とまでいかないまでも、だいぶ派手めなアイメイクがほどこされていて、瞬きをするたびにバシバシと音が聞こえてきそうだった。
「あ、昨日いなかった人ですよね。たしか……あれ、名前なんでしたっけ? あ、私は石坂えみりですー」
結構な距離があるのにここまで香ってくる香水に動揺しながらも自己紹介する。
「佐和です。……どうぞ、よろしく」
「あ、そうそう! 佐和さんでしたね! もう、すっごいうらやましいんですけどー。久遠財閥の御曹司のところ行ってたらしいじゃないですか。しかも顔がいいとか。本当なんですか?」