眠れぬ王子の恋する場所
熱なんて出したのはどれくらいぶりだろう……と天井をぼんやりと眺め考える。
住み慣れたワンルームは十畳ほどの広さと大容量のクローゼットがあって、気に入っている。
ただ……泥棒に入られたっていう黒歴史だけが住み心地の邪魔をするけれど。
元から荷物が少ないせいか、置いてある家具はベッドとローテーブルくらいで部屋はスッキリしている。
オフィスでふらふらになった私は、社長に詰め込まれるように車に乗せられ、ひとり暮らしをするアパートに戻された。
私を担いだ社長はズカズカと部屋に入ると、私をベッドに寝かせ、途中で買った総合薬やらスポーツドリンク、栄養補助食品の入ったビニール袋をどさっと置いた。
『久遠には俺から連絡入れとくから。明日も無理して仕事くるなよ。お大事にな。……あ、もしなんか困ったことがあったら連絡しろ。石坂寄こす』
最後の一文だけ、ニヤリとした笑みで言った社長に『悪化させたいんですか』と力なく返すと『お大事に』と今度は裏のない笑顔を向けられた。
――それが、今から一時間前のこと。
ピピピっと電子音が鳴り、服の下からもぞもぞと体温計をとりだす。
38度4分。
社長が帰ってから、一応、薬を飲んだけれど……解熱剤ではないし、熱はまだまだ高い数字を叩き出していて怖くなる。
ここ数年、インフルエンザにもかかっていなかったし、こんな高熱久しぶりすぎて本当に自分の熱なのか疑問に思うほどだった。