眠れぬ王子の恋する場所
「……社長から連絡行かなかったんですか?」
「いや、きた。だから、来た」
「はぁ……」
ふたつ出てきた〝きた〟の意味が、鈍った思考回路では理解できずに曖昧な返事だけしていると、私の肩をぐいっとゆっくりと押した久遠さんが部屋の中に入ってくる。
そして、石坂さんがそれに続こうとしているのを見て、初めて、彼女が一緒にいることに気付いて驚いた。
にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべた石坂さんは、久遠さんの肘のあたりのYシャツを掴んでいて……そこに、ムカッとした感情が湧きあがっていたとき。
久遠さんが石坂さんを振り返った。
「誰だっけ……名前忘れたけど、もういい。帰れ」
ピッと腕を振り払った久遠さんに、石坂さんは目を丸くしたあと「えー、それはひどくないですかぁ?」と笑う。
「案内しろっていうから、私、来たこともないのに住所調べて案内したのにー」
「俺はこいつの部屋まで案内しろって言っただけだし、これで依頼は終了だろ。金なら三ノ宮に払うし」
ああ……ここまで案内させたから、石坂さんが一緒だったのか。
ぼんやりした頭でそれを理解する。
膝の力が抜け、崩れ落ちそうになるのを堪えながらなんとか立っていると、久遠さんがそれに気付いたのか、私の頭を自分の胸に抱き寄せた。
「寄りかかってろ」
久遠さんのいつものYシャツ越しに、体温が伝わってくる。
久遠さんの体温が冷たくて気持ちよく感じた。
私の熱が高いのもあるとしても、相変わらず体温低いなと心配になる。