眠れぬ王子の恋する場所


「あ、佐和さん、具合悪いなら私、おかゆとか作りま――」
「邪魔だって言ってんだろ」

一方的に会話を終わらせた久遠さんが、石坂さんを追い出す。

有無を言わさない強引さに、さすがの石坂さんも食らいつくことができないようだった。

石坂さんの驚いた顔が、バタンと音を立てて閉められたドアで見えなくなる。

ガチャリと鍵がかけられたのが音でわかり、なんとなく胸を撫で下ろす。

吉井さんほどじゃないにしても、石坂さんは苦手かもしれない。
騒がしいっていうのもあるし……どうも、遠慮がなさすぎる気がして。

「三ノ宮が珍しく仕事入ってるって言うから、住所だけ教えてくれればいいって言ったんだけど。なんか、三ノ宮の近くにいたさっきの女が電話口に出てきて、無理やりついてきて……」

そこまで話した久遠さんが、嫌そうな顔で「おまえ、よくあんなヤツと同じ職場でやってられるな」なんて言う。

「私も今日初めて会ったので……これからどれだけ耐えられるか正直、自信ありませんけど」

言い終えてから、はぁ……と熱い息をつくと、久遠さんは私の肩を抱き、部屋を見渡したあと、ベッドまでを歩く。

久遠さんは早い話が引きこもり同然だし、身体付きだってひょろっとしていて細いのに、私を支える腕は思いの外しっかりしていて意外だった。

ベッドに横になると、久遠さんは私にバサッと掛布団をかけたあと、片手に持っていたビニール袋のなかをガサガサと漁る。

そして、おでこに貼る冷たいシートの箱を取り出すと、私のおでこにピタッと貼りつけた。

「……買ってきてくれたんですか?」

未開封だった箱を見て言うと、久遠さんがうなづく。

「三ノ宮から熱出したって聞いたから。途中のドラッグストアで店員に〝熱出したヤツが欲しがりそうなモン全部買うから教えろ〟って持ってこさせた」

今、なにかと問題になっている〝お客様〟に思えて、呆れてしまう。
いくらこちらがお客でも、モラルのない神様はダメだろうに……と思うものの。

久遠さんが持っているビニール袋の中には、これでもかってほど、アイスノンや体温計、ゼリーなんかが詰め込まれていて、店員も店員だなと眺める。

きっと、久遠さんが世間知らずなのをいいことに、あれもこれもと買わせたんだろう。
大きいサイズのビタミン剤まであって、まったく……と苦笑いが浮かぶ。


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