眠れぬ王子の恋する場所


「こんな買わされて……久遠さん、絶対ひとりで買い物いかない方がいいですよ」

自分で思っていたよりも弱々しい声が出た。
久遠さんも同じように思ったのか、わずかに顔をしかめる。

「行かねーよ。ホテルで暮らしてればまず必要ないだろ」
「それもそうですね……。あの……もし、心配してきてくれたなら、ありがとうございます。でも寝てれば治るので、帰って大丈夫ですけど……」

ベッド近くの床に座ったまま動こうとしない姿に言う。

わざわざ来てもらって失礼なのはわかっていたけど、こうして部屋にいられるのも落ち着かないし……正直、ひとりの方が気も休まる。

だから言うと、久遠さんはしばらく黙ったあと、口を開く。

「ここまで案内させた女に、今の電車はすげー冷えてるって聞いた。外は暑いけど電車ん中は冷えてるし丁度いい場所がないって」

石坂さんのことか……と、ぼーっとしながら見る先で、久遠さんが私を見て眉を潜めた。

「どうせ、温度差でやられたんだろ。言えば、送迎の車出したのにバカじゃねーの」

突然悪態をつかれ、久遠さんは今日も通常運転だなぁとぼんやり考える。

「そんなお願いできるわけないでしょ……。こんなときまで馬鹿にしにきたんですか」

呆れてついたため息が熱い。

久遠さんはわけがわからなそうな顔をして「今のって馬鹿にしてたのか?」なんて聞くから、「もう……いいです。どっちでも」と会話を終わらせた。

もしかすると、心配して言ってくれたつもりだったんだろうか。だとしたら、だいぶ言葉を間違ってる。

親しい友人は社長だけって話だけど、社長、久遠さんのことすごく甘やかしてきたんじゃないのかな。だからこんな横柄な感じになっちゃったんじゃ……と目を閉じ考えてから、顔をしかめた。

やっぱり、落ち着かない。

「あの……それで、いつまでここにいる気ですか? 仕事は?」



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