エリート御曹司が過保護すぎるんです。
「これを持っていてもらえますか」

 手渡されたのは、営業用のカバンだった。

「あ、はい」

 言われるままに荷物を受け取り、彼の横に立つ。

 二階堂さんはワイシャツの袖をまくりあげ、左腕にはめていた銀色の時計をはずすと、それも私に差し出した。

 ここでネクタイも緩めてくれたら最高なのに。
 ……なんて妄想が突っ走りそうになり、慌てて思考にストップをかける。


 タイヤをチェックしたり、フレームの曲がり具合の確認したり。
 ビジネスマンのイメージが強いぶん、こうして作業をする姿は、とても新鮮だ。
 仕草がいちいちさまになっていて、ついつい視線が引き寄せられてしまう。

(意外と腕、筋肉質なんだ)

 見た目はスリムだけれど、肩幅は広いし、腕にもほどよく筋肉がついている。
 真剣な目で自転車をチェックする姿は少年のようで、これまた新しい発見だ。

「なに?」

 私の視線に気付いた二階堂さんが、下から覗き込むように仰ぎ見た。
 男性は女子の上目づかいに弱いというけれど、男性の場合の威力も相当だ。

「う、腕が長いんですね!」

 思わずそんなことを口走ってしまった。
 すると彼は目を見開き、吹きだした。

「和宮さんって、おもしろいですね」

 ツボに入ってしまったらしく、二階堂さんの笑いは止まらない。
 私はなんだか無性に恥ずかしくなり、手渡されたカバンをぎゅっと抱きしめた。
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