エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 体育館までの距離はあっという間だった。

「怖くなかった?」
「はい、ちっとも。私こそ、重くてすみませんでした」
「全然重くなかったよ。桃ちゃんがあとふたりくらい乗っても大丈夫」

「……桃ちゃん?」

 びっくりして二階堂さんの顔を見上げると、彼は「しまった」というふうに口もとに手をあてた。
 真っ赤になって視線を泳がせている。

「い、いや、紫音がそんなふうに呼んでいたから、移っちゃって、つい……」

 つられてこっちまで、顔がほてってくる。

「そうですよね。確かに移っちゃうかも。親しい人しかそんなふうに呼ばないけど、二階堂さんならいいですよ」
「ほんと?」

 彼は嬉しそうに笑った。
 頬に片えくぼができている。
 まぶしい笑顔に、胸がキュンと締め付けられた。

「桃ちゃん」
「はい、なんでしょう」
「いや、なんでもない。かわいい名前だよね」

 二階堂さんはなにがそんなに嬉しいのか、にこにこしながら私の名前を連呼した。
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