エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 だめだ。紫音は誤魔化されてはくれない。
 怒るでもなく、笑うでもなく、紫音は真摯に私に向き合っている。

 友達だと思っていた人が、自分の彼氏に思いを寄せている。
 それを知ったとき、彼女はどんなに苦しかったことだろう。

 責めるような態度ではないけれど、紫音は私の本心を聞くまでは、絶対に逃がしてはくれないような気がした。
 でも、嘘は言っていない。

 憧れの対象で、目の保養だった。
 ――サマータイムが始まるまでは。

 今日ここに来て、会社のときとは違う二階堂さんの素顔をたくさん見ることができた。
 真剣にボールを追いかける姿や、仲間とふざけている姿を、心のなかに焼きつけた。
 自転車のうしろに乗せてもらったときも、とても嬉しかった。
 このまま、ずっと彼の背中に触れていたかった。

 キラキラした笑顔が眩しくて、私だけを見ていてほしい。
 ――そんなふうに思ってしまった。


「桃ちゃんの本心を教えて。淳司も大事だけど、私にとっては桃ちゃんも大事なの。唯一無二の親友だから」

 とうとう心の防波堤が決壊した。
 とめどなく涙があふれてくる。

「ごめんね、紫音ちゃん。二階堂さんが優しいから、勘違いしたの。好きになっちゃいけないって自分に言い聞かせてたんだけど、気持ちが止められなくて」

「うん」

 わかってる。
 紫音はほほ笑みながらうなずいた。

「ごめんなさい。ちゃんとあきらめるから。だから、ごめんなさい」

 二階堂さんを好きな気持ちに嘘はつけない。
 でも、あきらめる覚悟はできている。
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