エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 しばらくの沈黙のあと、紫音が私の頭をぎゅっと抱きしめた。
 そして、泣いている私の頭のうえで、「桃ちゃん、バカだなぁ」とつぶやく。

「私に遠慮することないのに。好きなら付き合っちゃえばいいじゃん」

 軽い口調のその言葉を、すんなり理解することができなかった。
 彼女はなにを言っているの?

「でも、紫音ちゃんの彼氏でしょ?」
「誰が?」
「二階堂さん」
「はぁ?」

 紫音が腕をほどいて私から離れた。
 呆れたように目を見開き、眉根を寄せている。

「桃ちゃん、私と淳司のこと知らないの?」
「知ってたよ。ずっとまえから付き合ってたよね」
「マジか――――!」

 紫音は床の上でひっくり返り、「淳司、不憫すぎる……」と天井に向かってつぶやいた。


 たっぷり30秒ほど放心したあと、紫音は突然むくっと起き上がった。そして大きくひとつため息をついた。

「ごめん。はっきり言わなかった私が悪かった」

 紫音は細い脚を組み、あぐらをかいてこっちを向いた。

「あいつ、親戚なのよ。だから仲がいいけど、全然そんなんじゃないから」
「親戚?」
「うん。またいとこなんだ」
「え?」

 紫音の言葉をうまく処理できず、頭の中がフリーズした。
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