エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 しばらく無言で抱き合ったあと、ふいに彼の腕がゆるんだ。
 背の高い彼を見上げると、ちょうど上半身をかがめて私の顔に近づいてくるところだった。

 長い睫毛を伏せながら、きれいな顔が目の前に降りてくる。
 そして次の瞬間、唇にやわらかなものが触れた。

 しばらく触れ続けた唇を離すと、二階堂さんがふわりと笑った。
 彼の濡れたような瞳のなかには、恋に溺れている私の姿が映っている。

「桃ちゃん……好きだよ」

 私は返事をするかわりにほほ笑んで、そっと目を閉じた。


 何度も角度を変えて、たくさんの小さなキスを浴びせられる。

 小鳥のように唇の先端をついばむキス。
 下唇を甘く噛み、舌先で唇の輪郭をなぞり、頬やおでこにやさしく降り注ぐキスの雨。

 二階堂さんは手のひらで私の髪を撫で、頬に触れ、うつむく私の頤を指先でそっと上げる。
 もう逃げたりしないのに、不安そうな瞳で、彼は何度も私の顔を覗き込む。

 もっと二階堂さんと近づきたい。
 広い背中に両腕をまわし、ぴったりと体を合わせた。
 二階堂さんの体はさらに熱くなり、私を抱きしめる腕に力がこもった。

 暗闇のなか、私たちはひたすら唇を求めあった。
 打ち上げられる花火が、愛しい人の姿をときおり浮かび上がらせる。

「桃ちゃん……好きだよ」

 何度も彼が私の名前を呼ぶ。
 けれど私が返事をするまえに、ふたたび唇を塞がれてしまう。
 カラカラに乾いていた心のなかが、彼の甘い吐息で満たされていく。
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