ワケがありまして、幕末にございます。ー弐ー
「そもそもなんでおめぇは刀もってうろうろしてんだよ」
「やだなぁ土方、侍たるものいつでも刀もってなきゃダメだ、ろ‼」
足を踏み込んで一閃、のあとの…ぱさ
と畳に一房の髪が落ちる音。
カチン…と音を立てて鞘におさめて
「…またつまらぬものを斬ってしまった」
なぁんて言ってみたかったこのセリフ。
「馬鹿野郎か!ほんとに切る阿保がいるか!つかつまらねぇってなんだよ、俺の髪切っといてつまらねぇなんて言わせね…って総司お前は笑ってんじゃねぇぞ!」
「ふふ、くふっ…ふふ」
笑う沖田さんが見たくて薄く目を開く。
布団に顔を押し付けて、細い肩を震わせて。骨の浮き出た手で必死に掴んで。
たった一瞬だったけども、彼が抱いていた感情がアタシの中に入ってきた気がした。
悲しい
哀しい
悔しい
なぜ
どうして
でも
寂しい
淋しい
「沖田さん」
「ふふ…、っっ…、」
骨と皮だけ、なんて比喩じゃなくて。
現実にそうなりつつある沖田さんの体を包むように優しく手をまわした。
「沖田さん。大丈夫だよ」
「沖田さんのその想いがある限り、俺たちはずっと一緒にいる」
ふわ、と沖田さんとアタシを更に大きい手が包む。
「総司」
「嫌ですっ…私はまだ…っ」
「総司」
「嫌だっ…」
「命令だ、生きろ」
「…っ!」
「要らなくなんかねぇ、俺にはお前が…俺だけじゃねぇ、市村だって新八や近藤さんだって!」
「お前が生きていねぇとダメなんだよ…」