ワケがありまして、幕末にございます。ー弐ー
手
“日野”
そこは新選組の故郷といえる場所。
「沖田さん」
「愁くん」
「俺は、貴方と常に一緒に生きてます。心も、志も、この誠も」
この地を出発する今日、新選組は甲陽鎮部隊と名を変える。
薩長に知れている名を隠し、少しでも相手方を刺激しない様にだ。
「そうだぞ総司」
「近藤さん…」
「俺達は、どこにいようと家族だ。
ずっと、これからも。それは変わらないさ」
目を赤く腫らした近藤さんは本人の前でこそ涙を流していないが、それも時間の問題になりそうだ。
「皆さん…ご武運を」
頬がこけ、目元の窪みも酷く。
肩も手首もめっきり細くなった沖田さん。
きっと彼を見るのはこれで最後になるのだろう。
「お前、ンなに目ぇ開いたら、」
「大丈夫です」
アタシの目なんていいんだ。
最後までこの目に焼き付けておきたい。
「ふふふ。愁くんたら、だめですよ」
「総司」
土方に支えられながらアタシの前に立った彼は、弱弱しく、それでいて温かくアタシを抱きしめた。
「大丈夫です、よ」
だって一緒なんでしょう?
今までと変わらない優しくて、少し悪戯な笑顔で沖田さんは言った。
「…敵わないなぁ」
この笑顔に、どれだけ助けられてきたんだろう。
「沖田さん。
…また会いましょうね」
来世でも良い。
地獄でも、天国でも良い。
貴方が本当に大好きで、本当に大切な人でした。