ワケがありまして、幕末にございます。ー弐ー
日野の地から三日程歩いた後、アタシたち甲陽鎮部隊は甲府に入った。
「内藤さん、なーいとーうさーん」
「何回も言うな、聞こえてる」
振り向いたであろう土方の髪が揺れて跳ねる音はもうしない。
少し羨ましくもあった、あの艶のあった黒髪。
今は短く切りそろえられ少ししか風に靡かない。
それでも端正な顔が変わることはないのだからきっと憎らしいほど似合ってるのだろう。
「内藤隼人さーん」
「だからなんだっての」
「あ、ごめん呼んだだけ」
「は…?」
眉間に皺を寄せたであろう土方…改め内藤さんに文句を言われる前に立ち去る。
新選組でなくなったと同時に土方は内藤隼人。
局長である近藤さんは大久保剛と名を変えた。
この変化は…一歩ずつ、確実に。
悲しみの待つ未来へと進んでいる証だ。
「市村」
「山口さん」
縁側をゆったりと歩いていると背後から呼び止める声。
「どうしたんですか」
「あんなに嫌がってたのに、良かったのか」
「…渋々です。隊律を乱す訳にはいきませんから」
アタシの変化はずっと嫌がっていた隊服、そして髪。
土方同様、腰まであった髪をバッサリ前下がりベリーショートにした。
戦いにの場に出る以上その場を乱すような事はご法度、しかもアタシみたいな目立つ髪なら尚更だ。
「…案ずるな、似合っている」
ぽん、と頭に優しい掌の感触。
やっぱり茶飲み友達なだけあって斎藤さんの纏う空気は緩やかで心が落ち着く、様な気がする。
あながち沖田さんのお兄さんポジションも間違っていないな、うん。