空と君との間に
よし!予定通りだ!


Bクラスの女子が、廊下から彼女に向かって、声を掛けていた。


彼女はそれに応え、廊下から呼ぶ声に駆け寄っていった。


俺はそれを、他の奴達に悟られないよう、こっそりと、目で追った。




彼女の名前が分かった以上、こいつらには悪いが、もう用はない。


俺は話を切り上げ、自分のクラスに戻ろうと腰をあげた。




…………………




みすず?




そういえば、今何て?


みすず、って言ったよな?




俺の記憶は、小学生の頃へ戻り、フル回転した。


確かみすずは…


…思い出せない…


…みすずの顔を…


もし彼女が、あの『みすず』なら、あっちも俺に気付くはずだし…


いや、あっちも同じように、俺を忘れている可能性も…


これは偶然だとしか思えない。


数秒で出した結論はそれだった。


『みすず』なんて名前は、いくらでもあるはずだ。


ただ、その偶然は、俺にとっては嬉しいものには違いなかった。


幼い頃の恋の相手と、名前が同じなのだから…


そう思いながら、自分のクラスに戻ろうとすると、今まで話していた向井が、小声で俺に話し掛けてきた。


「おい空、松永っていいよなぁ…俺、結構タイプなんだよ、あいつ」


…松永?


「あ、あぁ、割と可愛いんじゃない?松永っていうんだ。んじゃ俺、そろそろ行くわ」


俺は、自分の気持ちを隠すため、思ってもいない言葉を返し、自分のクラスへと戻った。



やはり偶然だ…


小学生の頃の、恋の相手『みすず』の名字は、確か『吉岡』だった、と思い出したのだ。


彼女が『松永みすず』なら『吉岡みすず』とは別人だ…


まぁ俺は、わずかなチャンスを不意にしたというわけだ。


小学校の同級生なら、切り出すことはそう難しくはなかったのだから…


まぁいい、それはそれで…


とりあえず、どうにかして相手にも、俺を知るような方法を考えないと…


それから当分の間、決して恋に積極的ではない俺は…


結局、彼女との接触を果たせずにいた…
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