奏でるものは~第4部 最終章~
優さんが、昔より黒くて、レイヤーが入ったショートヘアの頭を少し掻き上げて、背広を脱ぎ、ネクタイを緩めた。
1つため息を、ついて話し出した。
「あの日、歌織が部屋から飛び出ていった時、外までは追いかけられなかった。
部屋に戻って最初にあの女を放り出したよ。
でも歌織に連絡が取れなくなって、傷つけたと分かった。
学校も休んでたみたいだし、その後に会っても逃げるようだっただろ?
話もできないと、ショックだった。
俺の部屋で話したあの日も、話せば分かってくれると思ってた。
だから、別れよう、の一言にキレた。
なんで信用できないのか、分からなかった。
相当辛かったんだろうって、暫く経ってから、春菜に聞いた。
でも、ちょっとスッキリしたみたいで、コンビニで会うのは大丈夫って聞いて、時々龍に着いていった。
その後は留学の話になって、バタバタしはじめた。
みんなで3月にファミレスで会っただろ?あの時には留学が決まってた。
そのあとアメリカに行って、語学スクールに行って、秋に大学に入学したんだ。
それからは、必死で勉強もして、友達とも遊んだり、向こうの会社の仕事も見せてもらって、長期休暇も日本には戻らなかった。
戻ったら、歌織に会いたくなるかもしれない。
そうしたら、アメリカに戻るのが嫌になるかもって、思ってた。
歌織は自分を高めることが大切だったんだって、気付いたから、俺も歌織に会って、恥じない自分になりたかった。
日本に帰ってきて、サイタの人事を聞いて驚いた。
サイタに就いてるとは思わなかったからな。
こないだのパーティは予想外の再会だった。
ピアノを弾いてるのが歌織だってすぐにわかったよ。
総一さんに挨拶してたら、お前が出てきた。
大人になったと感じたよ。
会えて嬉しかった。
ずっとお前が好きなんだよ」
苦笑いしたり、懐かしそうな顔をしながら、優さんが話してくれた。
「ありがとう。
でも、私は、今の優さんを知らない。
どこが変わったのか、変わってないのか。
振り出しに戻ろう?
今の私は、7年前の私じゃないわ。
優さんの嫌いな女になってるかもしれない」
再び目線を手元に戻した優さんが呟くように言う。
「………また、逃げるのか?」
「違うわ。
ゼロからやり直すの
今の立場をわきまえながら」
お互い、取引先相手の筆頭者の親族。
過去のことで、個人的なことで、会社間の関係を乱すことはできない。
出会いからやり直して、お互い、新たな出会いも踏まえなければならない。
大人の事情が渦巻くのだから。