幸せポイント
「だけど、地縛霊は寒さや熱さ、空腹、眠気をちゃんと感じられる存在なんだよ?」


「え? そうなんだ?」


幽霊になれば人間の欲求なんて全部消えてしまうと思っていた。


だけどそれは単なる思い込みだったようだ。


「それに地縛霊は自分が誰であるかわからなくなるまでその場に止まる事になる。やがて自分が人間だったことすらわからなくなってしまうよ」


「それは嫌だな……」


最初から自分が人間だったかどうかわからなくなっているならまだいいけれど、そこに至るまでの時間が長ければ長いほど苦痛を伴う事になるのだ。


そんなのは地獄にいることと変わらないような気がする。


「それで、とりあえず天国に行きたいか地獄に行きたいか君の意見を聞こうと思うんだけど、どう?」


「そりゃあ天国に行きたいよ。わざわざ自分から地獄を選んだりしないでしょ」


「そっか。そうだよね。だけど今の君には天国へ行く権利がない」


「どうしろっていうの?」


あたしは自称天使を上目づかいに見上げた。


「これから一か月かけてこのポイントカードを全部埋めてもらう」


そう言って天使が取り出したのは二つ折りにされたポイントカードだった。


厚紙でできているそれはどこのお店でも取り扱いがあるような、見慣れたポイントカードと何も変わらなかった。


表には『幸せポイント』とピンク色の文字で書かれていて、裏には何も書かれていない。
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