恋は突然に 意地悪なあなたの甘い誘惑
家の鍵を開けようとして、家に電気がついているのに気付いた。

(- 誰?)

そっと、扉を開けると、
「綾乃!おかえり。」
「お姉ちゃん…。珍しいね。こっちの家に帰って来るなんて。」
「うん、ロケがあしたこっちからの方が近いから。」
姉の優樹菜は長い、ふわっとした髪と、甘い香りを漂わせて言った。

「そう。」
姉の優樹菜はトップ女優だ。
竹田優樹菜 芸名 石川優樹菜23歳
くりっとした瞳、高い身長、細い体ながら、女性らしい体つき。誰もが振り返る綺麗な顔。
それを、余すことなく使い、周りを巻き込む力。
綾乃にはないものをすべて持っていた。
小さいころから、この姉に比べられてきた。
元女優の母は、そんな姉に期待を寄せ、不愛想で可愛げのない綾乃をどう扱っていいかわからなかった。
母の期待と愛情を一心に受け、元女優の母が営む芸能事務所の看板女優だった。

こんな、芸能一家が嫌いでしかたのなかった綾乃は、ひっそりと地味に生きてきた。

(- なのに…!)

めずらしく感情が表に出ていたのか、優樹菜は
「綾乃どうしたの?何かあった?」
柔らかな笑顔で聞いた。
そんな笑顔にもイラつき、
「なんでもない。もう寝るから。」
と綾乃は部屋に引きこもった。

(- お姉ちゃんが悪いわけじゃないのに。悪いのはあたしだ。)

もう、涙さえでない自分を呪った。
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