恋は突然に 意地悪なあなたの甘い誘惑
土曜日、綾乃は1本の電話で目が覚めた。

【着信  藤堂マネージャー】

綾乃は大きく息をつくと、電話を取った。

「ハイ。」

「おはよう、藤堂です。」

「おはようございます。」


「今日、またレコーディングなんだ。来てくれる?」

「またですか?なんで。」

「カズがアレンジお願いしたい曲があるみたいで。」

「あの人の曲で十分じゃないですか?」

「カズは曲を作る天才だけど、楽器についてはそんなにだから。さらにいいものにしたいんじゃないかな。それに、君もうちに所属してるんだし、仕事だよ。」

「その、よくわからない理論もういいです。行けばいいんですよね。」

「ありがとう、迎えをやろうか?」

「いいです、今から向かうので。」
綾乃は諦めたように言った。

(- なんでこうなるの…。)

綾乃は、鏡の中の自分を見つめた。

(- 冴えないあたし。あたしなんかが…。)

適当に、クローゼットから服を着ると家を出た。

父の会社の前につくと、以前の警備員がまたいた。

(- また、入れないんじゃない?これ…。)

そう思って躊躇してると、中から藤堂がやってきた。

「綾乃ちゃん、早く!」
綾乃はほっとして、ビルの中に入った。

「これ、これからのIDカードね。これ見せれば入れるから。」
そういって渡されたカードを綾乃はカバンにしまった。

前と同じスタジオに行くと、父がいた。
「綾乃、今日からは仕事だからな。」
その言葉に、綾乃も
「よろしくお願いします。」
と頭を下げた。
昔からこの芸能一家に育ってきた。嫌でも業界の常識などは叩き込まれた。
綾乃は大きくため息をついた。
すでに中では、レコーディングが始まっていた。
アップテンポのナンバーが小気味のよい音を奏でていた。

(- この手の音楽はいう事無いな。バンドのいいところが前面に出てる。)
綾乃はリズムを取ながら、真剣に聞いていた。

「OK!」
という隼人の声でメンバーが戻ってきた。
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