夢かかげる星のエアル
ヒラリ、
肌に離さず手のひらで握りしめていた、一枚の絵はがきを仰ぎ見た。
身体の奥で湧き出てくる熱い何かを感じる。
強く引き寄せられるその気持ちは、ありもしなかった理性を引き出してきた。
次第に小さくなってゆく海岸沿いの町並み。
それに後ろ髪を引かれているとは、昔の自分にしたら何ともおかしい話だ。
そう思いつつ、またどうしても見てしまう。
見て、
見て……、
ついに、見えなくなった。
────白い雲の海を突き破り、加速する機体の揺れに耐える。大気を抜け、空気抵抗が無くなった空間。光と重力と質量に支配された空間。
明るくも真っ暗な世界は、自分を現実へと引き戻した。まるで今までは夢であったようにも感じる。
果てしないかなたに見えるのは、強く輝く…太陽だ。
その明暗に一度目をくらませながらもなんとか安定軌道に差し掛かると―――僕は、再度振り返った。
あまり時間はない。長居していられない。気配が、近い。
直ぐにこの場から移動しなくてはならないのに、……どうしても、見たかった。
あの一枚の絵はがきを胸ポケットに大事にしまいこみ、碧と白、緑にふちどられた、その美しき“球体”に目をやる。
なにかのために生きのびたいとは、このことをいうのか。
命ある意味、生存する意味、…僕は、かならず……。
ーーふと、唇に指の腹を持ってゆく。
ーーアクセルレバーを強く引く。
ーー『エンジン点火、五秒前』のカウントダウン。
ーー吹き出すように、かかる圧力。
「ありがとう。……希望の惑星(ほし)」
碧く碧く光る球体―――“地球”。
僕はこの場所を、あの町を…君のことを絶対に、忘れない。