夢かかげる星のエアル



フワリ、私の髪が揺れる。

今度は山間の風だった。

春の植物の匂いを含んだそれを鼻で感じながら見上げると、高くそびえたつ緑の山々が見える。

その山と山の間。うんと高い場所にかけられている高速道路の赤い橋は、青海町の上空をはしるだけで、私たち自身を乗せて連れて行ってくれることはない。大きな貨物トラックが何台も通過していた。



「あんれぇ~、ハルちゃん、おっかえりぃ~」


と、そこでなまりの癖の大きい老人の声がして我に返る。

いつの間にかもう家の近くまで歩いてきていたらしい。



「重蔵(じゅうぞう)おじちゃん、ただいま~」



広大な田んぼのどまんなか。

軍手をはめた手をパンパンと叩き、いつもかぶっているお気に入りの麦わら帽子を押さえながら立ち上がる年配男性は、ご近所の重蔵おじちゃんだ。

ちなみにあの麦わら帽子は私が、彼の七十歳の誕生日の時にプレゼントしたものなんだけど。



「今日はぬくいなぁ~」

「そうだね。授業中何回も寝ちゃった」

「がははははっ!ハルちゃんらしい!」

「寝て起きて寝て起きてでなーんにもしてない」

「そがいっちゃんだ!寝て、起きて、そだけで幸せ。のんびりゆっくり年をとるんだで」




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