夢かかげる星のエアル
そんな重蔵おじちゃんに何も返せなかった。
にこにこと顔を綻ばせながら土をいじり始める重蔵おじちゃんは、私が小さい頃の重蔵おじちゃんよりもやせ細っていて、強い風が吹いたら今に折れてしまいそうだった。
さっきは楽な方がいいのかもしれないって思っていたけれど、彼をみたらまた本当の幸せがなんなのか分からなくなった。
寝て、起きて、耕して、水を撒いて、また寝て、起きての同じ作業。それだけをやってきた重蔵おじちゃんはそれでも幸せなのだという。
なんで?
なんで続けられるんだろう。
自然以外なんにもない、日々が同じことの繰り返しであるこの町で、なにに価値をおいて過ごしているんだろう。
***
ピロリン。
深夜一時すぎ。
布団のそばに置いてあった私の携帯が小さく震えた。
だれ?なんて思いながら、リっちゃんにおすすめされて借りている少女漫画を閉じた私は、その画面を確認して頬杖をついた。
――――あのあとの私がどうしていたのかを説明するのは一分でも余るくらい簡単。
まず学校から帰ってきてからすぐ昼寝をして、起きたらフネばーちゃんが作ってくれた夕飯を食べた。
四月なのにまだ居間に出ている掘りごたつはあたたかく、折り畳み式の座椅子に腰かけてテレビを見ていたらまた眠くなった。
フネばーちゃんは、またそんなに寝て!とぐちぐち言ってきたが、もちろん適当に流す。
それとうちのお風呂は大きい。
なんせひのき風呂だ。
桶を置けばカッコーン…と響く昔ながらのお風呂。
フネばーちゃん曰く、べらぼうに肌がつるつるになるという、すりつぶされた謎の葉っぱは、確かに効果てきめん。お蔭さまで白くみずみずしい肌を維持できている。
そして湯上りには涼みたくなる。
はじめにいうが、私の家は、純和風な造りをしている。障子を横目に、へりの部分に張り出して設けられた板敷き状の通路…縁側をミシミシを音を立てて移動したのなら、もう虫の音か動物の鳴き声しか聞こえてこない。
涼しいのはいい。
だけど、綺麗な夜景が見える…なんてことはないし、それはただのなにもない暗闇でしかない。ド田舎だ。
でも、強いていうなら月と星なら、鮮明に見える。
―——それは、まるで手が届きそうなほどに。