夢かかげる星のエアル
つまりは、異星人である彼にはこっちの常識が通用しないということ。
思い切り怪訝そうな顔をする少年は、顔を真っ赤にする私の気持ちなんてちっとも理解できないのだろう。
やりにくい。やりにくすぎる。全長十五メートルに満たない小型ロケットの前、辺り一面の緑と、その先に見える大海原を横目に手をつないで向き合っている年頃の男女。色一つ変えない端正な顔が、目の前にはあった。
…つい三十分前のことを思い出して、私は目の前に座っている銀髪の男へじとり目を向ける。
「…おい、お茶とはなんだ。毒か」
「おいじゃない、私はハルカ。それとこれは毒ではない。の、み、も、の!私たちは六割が水でできてるの!補給しないと死んじゃうの!」
「ほう。お茶に関してはおおよそ理解した。地球人は水分摂取をしなければ死滅するのか…軟弱だ。それに私はハルカ…?なんだそれは」
「…ああ、もういい。いろいろもうあきらめた…。ハルカは私の名前だよ」
「名前?」
「あなたにもついてるでしょ」
そういって湯呑に口をつける私。それを少年はマジマジと眺める。
「ない」
「…そっか、ないのか…」
「…」
「……………え?今なんて」
「———B10894」
私の部屋、ちいさな机越しに座っている銀髪少年はそう言って、湯呑を片手に持ち、恐る恐るお茶を口に含む。
うまい、と一言こぼして。
それは、裏山に不時着したロケットのボディに刻まれていた謎の暗号だということに私は数秒遅れて気づく。
「しかしそれらしきものなら、僕にもある。B10894、僕は生まれながらにそう呼ばれていた」
「…なに、製造番号みたい」
「あながち間違っていない」
「…」
私はそれ以上突っ込めなかった。
お茶の味わいを気に入ったのか、またごくごくと飲み込んでゆく少年を、私はどんな顔でみていたんだろう。少年にとってはそれが当たり前だとしても、私には悲しく思えた。
少年はリラックスしていた。でも、気をぬくことに慣れていないのか、周囲を見回している癖はとれてはいなかった。急に聞こえる鳥のさえずりにすら、バッと振り返って反応する。きっと怖い。わたしだったら。
すべてが未知な場所にたった一人。今の今までずっと戦い続けてきたいわば戦場の兵士が、そう簡単に安息できるわけない。