夢かかげる星のエアル
「名前、呼びにくいよ」
「そんなものいちいち呼ぶこともないだろう。呼ばれるのは、命令が下される時のみだ。問題ない」
「でも…友達とか、」
「友達?」
「…あ、えっと同胞?っていうの?」
「ああ。顔を合わせたことはない。我々は皆ゲオネスの民でありながら永久の個々人だ。命令を受け、それに従う。それをロケットの中で待つ。アノニマスを始末するために。だからロケットの外に出ることはほぼない」
「………そう、なんだ」
カーテンから差し込む朝日は、少年の銀髪をこんなにも綺麗に輝かせている。口を重くする私なんて気にすることもなく彼はまたお茶に口づけていた。
いくらかショッキングだった。
私と同い年くらいの男の子が、一生のほとんどをたった一人きりで過ごすなんて。
「でも、ロケットが治らない以上、あなたは地球にいなきゃいけない」
そう思って、私は青い瞳を見据える。
「ゲオネス星に帰還する手段──ロケットが、今原因不明の故障をしてるんでしょ?」
「…それは、本当に不可解だ」
少年は一つ頷いた。
「あの程度の異常現象でロケットが動かなくなるだなんて。こればかりはどうしようもない。位置情報も送れない。なんとしてでも任務続行を試みたかったが、悔やましい。ゲオネス繁栄への貢献が何一つできなかった」
「…じゃあ、あなたはこれから地球で生きていくの?それともまさか、自害とか、しないよね」
「前者だ。案ずるな。任務に失敗して命を絶とうなどという愚かな考えを、勇敢なるゲオネスの民は持たない。死ぬときは、アノニマスとの戦闘時。ゲオネス星人は、あくまで種のために命を燃やす」
「あくまで種のために…」
それは、彼が地球にて生きていく意思表示をした瞬間だった。
帰りたくても、帰れない。
それでも生きるのは、すべて種の繁栄のため。尊厳。彼には、多くの使命があるように思えた。