夢かかげる星のエアル
「別に、恥ずべきものでもないの。たぶん、本当に」
「…」
「損は絶対にない。あなたの命も脅かされることもない。だから、手を取ってみてよ」
「手を…」
「うん。きっと分かってくれる。助け合いも悪くないって。私、今までそんなこと思ってもみなかったんだけどさ」
手のひらを差し出す。
彼は、傷なんて作ってないのに貼り付けている頬の絆創膏と、差し出されたそれを交互に見ていた。
試案するような顔で、でも、そこに疑わしいという要件は込められていないように感じた。
変なの。私、人助けとか積極的にするタイプの人間じゃなかったのに、彼を見たら放っておけなかった。
戦うことでしか生きる意味を見いだせない。
いつも個人で戦い、死んだら終わり。
それが実際に種のためになっているかも分からない…漠然とした目的———そのために命を懸ける。
こんなの、日々をなあなあに過ごしてきた私が言えた義理じゃない。だけど…。
「名前、私がつけてあげる」
「…え?」
私は、彼にそう言って微笑んでいた。
「————エアル。あなたに出会った“春”」
「…春?」
「名前には意味があるの。私はハルカ。遥かかなたまで届く、ハルカ」
「意味…そんなものが」
「そう。そしてエアルはギリシャ語で春。花満開の、鮮やかな…あなたにぴったりな名前。私の家で過ごすんなら、呼び名があったほうがいい。今日からあなたはエアルだよ」
「エア、ル」
「どう、気に入った?」
私でも何かをあげれるのだろうか。
私でも、人の役に立てるのだろうか。
銀色頭に青目の少年———エアルは、何度か口遊むとわずかに口角をあげ、自分の手のひらを私の方に差し出した。
「…悪くない」
こうして、宇宙人と私の奇妙生活が始まったのである。