毎日、休日。
後悔と希望
十年間一緒にいた人に別れを告げたというのに、比較的自分が落ち着いていることに、和香子は気がついていた。涙だって、一粒も零れてこない。
いつもと同じように一日が始まり、いつもと同じように授業をこなしていく。居眠りをしている生徒を叱り、授業が終わると、生徒たちとおしゃべりをして笑い合っている自分がいる。
――あそこまで言ってやっても、きっと健人は今まで通り……。
確証はなかったけど、和香子は心のどこかでそんなふうに信じ込んでいた。
今までにも同じようなことはあったけれど、健人は突きつけられる肝心な問題を直視せず、するりと躱して、ある意味しなやかに生きてきていた。
何を考えているのか分からない……。それが健人の健人たる所以で、健人の魅力の一つでもあった。
だから、きっと今回のことも、健人はそうやってすり抜けてしまうだろうと思っていた。
和香子がマンションに帰ってくると、部屋の中は暗いまま、ひっそりと静まり返っていた。
ソファーの上には、健人の脱ぎ捨てられたシャツ……。
和香子はそれを手に取って、「ハァ…」とため息をついた。やっぱり思っていた通り、健人は全然動じていない。きっと今日もまた夜遅くになって、ひょっこりと帰ってくる。