毎日、休日。
突然いろんなことがありすぎて、何も言葉を発せられない和香子に、健人がニッコリと笑いかける。
「隠すことないよ。この絵の君は〝芸術〟なんだから、みんなに観てもらうべきだよ」
そう言われて、和香子は逆にここでこんなに大騒ぎしていることの方が恥ずかしくなる。
健人の背中の後ろに隠れるようにしがみついて、とりあえずその場から退散した。
会話のできるロビーまでやって来て、口を開く。
「どうやってあんな絵が描けたの…?」
体一つで出て行った健人だったから、和香子の疑問も当然だった。
「実は、ずいぶん前から描いてたんだ。美大時代の同級生が、ちょっと有名な画家になっててね。そいつが数か月間外国に行くことになって、アトリエが空くから、そこを使わせてもらってたんだ」
「じゃ、ずっとそこにいたの?」
健人は和香子の問いかけに、静かに頷いた。
「でも、何年も描いてないと、やっぱりなかなかうまくいかなくて……。だから、シンプルな心で僕の一番好きな人を描くことにしたんだ」
健人の一番好きな人は、和香子。それは、この十年間変わることのない真理だった。そして、これからも――。
「君を描いて、もしかして賞がもらえたら、君にも観てもらえるんじゃないかって思ってたんだ。……そしたら今日こうやって、君が来てくれた……」