【短編】はじめまして
次の日、悠妃は廊下のソファに座っていた。
僕が隣に座ると「はじめまして」と声をかけてきた。
遂に記憶が一日持たなくなった。
「わたし、何か大切なことを忘れてる気がするのに、思い出せないの」
悠妃はそう言って悩む。
昨日と同じことを言っている。
「ね、わたしと結婚してくれる?」
悠妃は僕にそう言って、手を握ってきた。
記憶がどんなに失くなっても、悠妃は何度も結婚しようと言ってくれる。
それは僕のことを本当に愛しているからじゃないのか。
きっと悠妃のこの記憶喪失は治らない。
それでもこうして一緒に過ごせるのだから、僕は幸せ者だ。
「大丈夫、もう結婚してるよ」
僕は最高の愛情を込めてそう返す。
このやりとりも、もう何度繰り返したかわからない。
fin.