君に捧ぐは、王冠を賭けた愛。
「それじゃ…」

こんな開けた場所で歌うのなんて初めて。
不安だけど、でもちょっと楽しみ。

大きく息を吸う。
澄んだ空気が、肺を通ってお腹にまで染み込んでいく。
頭の中にイメージする音が流れる。
今なら、どこまででも響かせられるとすら思える。

選んだのは、ミュージカルや演劇をやっている人なら必ず知っている曲。
初めてミュージカルに触れたときに覚えたのがこの曲だった。

明るくて元気が出る曲調。
小さいころはとにかく好きで、気が付けば口ずさんでいた。
私を初心に戻してくれる。

“手をとって前に進もう”という歌詞が今の心情とも重なる。

歌っていると、自然と足がリズムを刻み、体が動く。

おじいさん達も、歌に合わせて楽器を奏で、子どもたちは手拍子をしながら盛り上げてくれている。

次第に、何の騒ぎだと建物の中から人々が出てきて集まってきた。

皆、怪訝そうな顔をしてる。
でも、その表情はすぐに笑顔へと変化していく。

さすがは音楽好きな町民。
音楽がある場所に人が集まると、自然と身体が踊りだす。
< 58 / 173 >

この作品をシェア

pagetop