カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
「それより陛下。今日は頼まれていたものをお持ちしましたよ」
アデリーナは楽しそうに言って、ハンドバッグから小さなガラスの瓶を取り出した。
「私が調合した精油です。湯あみの際に使用すれば、快眠や精神安定の効果があるだけでなく、肌や髪を潤す効果もあります」
「ああ、すまないな。今度、美容施術の女官をユーパリアに送るから、そのとき一緒に持たせるとしよう」
モニカの疲労を気遣って、リュディガーが密かにアデリーナに頼んでいたものだった。彼女は現在、精神や神経についての研究をしていて様々な療法を知っている。時々は最新鋭過ぎて怪しい療法もあるが、頼りになるのも確かだ。
アデリーナの腕を信頼しているリュディガーは、皇后になるモニカの侍医になって欲しいと打診したことがあったが、すげなく断られてしまった。彼女にとっては皇后付きの侍医という名誉より、自由気ままに研究や治療が出来る方が魅力的らしい。
けれど昔から知っているよしみで、アデリーナはリュディガーが頼みごとをすればこうして宮殿に足を運んでくれる。ただし堅苦しい儀礼の嫌いな彼女は、宮殿の手続きをすっ飛ばし、リュディガー個人としか面会しないけれども。
「それでは、私はそろそろ帰りますわ。陛下の側近に見つかると、いちいちうるさいですもの。陛下もあまり馬房に籠もられていると、お馬さんの臭いが染みついてしまいますわよ」
三十も半ばを過ぎているというのに、アデリーナは子供のようにケラケラと笑う。そして来たときと同じように軽い足取りで帰ろうとしたが。
「ちょっと待ってくれ、アデリーナ。相談がある」
リュディガーはブラシを置くと慌てて馬房から出て彼女の背に呼び掛けた。
不思議そうな顔をして振り向いたアデリーナに、彼は真剣な様相で口を開く。
「婚約者にプレゼントを贈りたいのだが……何を贈っていいか迷っている。女性がもらって必ず喜ぶものとはなんだ?」