カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
ここしばらく、リュディガーは悩んでいた。もうすぐ婚約者の元に嫁入り道具を贈る時期だが、婚約の記念として一緒にプレゼントを贈りたいと考えていたのだ。
無難なのがジュエルなどの装飾品や高価なドレスだということぐらいは、彼にだって分かっている。けれどそんなものは嫁入り道具で嫌と言うほど贈るのだ。共に贈ったところで、紛れてしまうに違いない。
モニカの好みを考えて本か花とも考えたが、本なら宮殿に皇后専用の書斎を作るつもりだし、花もいずれ温室を贈るつもりだ。元々女性の欲しい物などに詳しくないリュディガーは、万策尽きてしまっていた。
こんな相談を持ちかけられるのは親しいアデリーナぐらいしかいないのだが、彼女は皇帝の真剣な悩みを聞いてニィッと口角を上げる。
「あらあらあら、皇帝陛下は本当に婚約者様に夢中ですのねえ。いつもしかめっ面で玉座に御座す陛下がこんな可愛らしいことで悩んでいるなんて、国民たちは想像もしないでしょうねえ、うふふふふ」
からかいをたっぷり含んだ笑顔を向けてくるアデリーナに、リュディガーは頬を赤くしながらも眉間に皺を寄せる。
「婚約者に贈り物をするぐらい、紳士として普通のことだろう。下品な笑い方をするな」
「あら、失礼。でも面白がっている訳じゃございませんのよ。私は幼い頃から知っている陛下が、ようやく一人前の青年として恋に目覚めたことが嬉しいだけです。親心ってやつかしら」
まったく、アデリーナには適わないと思う。子供の頃、傷の治療に耐えて涙目になっていたのを知られている関係なのだ。リュディガーがどんなに偉くなろうとも、アデリーナだけはきっと一生彼を負けず嫌いな子供扱いするのだろう。
苦笑いを浮かべ肩の力を抜き、リュディガーは「それで、何かいい案はないか」と素直に尋ねる。
しかし彼女は今度は穏やかに微笑むと、首を振って見せた。
「私に聞くまでもありませんわ。本当は陛下の中で答えはとっくに出ているのでしょう? 愛しい婚約者様に、何を一番さしあげたいか」
それは曖昧なように見えて、目からうろこが落ちるようなアドバイスだった。
リュディガーはモニカが何をもらったら喜ぶかということばかり考えていた。自分が何をあげたいか、とは考えていなかったのだ。
「相手を気遣うのも結構ですけど、御自分の望みを形にしてみたら、案外喜ばれることもあるものですよ」
聡いアデリーナは分かっている。この真面目な皇帝の恋は、さぞかし優しくて不器用なのだろうと。
「……ありがとう、アデリーナ」
どうやらリュディガーは答えを見つけたようだ。窓からの朝日を映す翠眼が、キラキラと恋の色を浮かべている。
アデリーナは弟のような彼のそんな顔を見て、満足そうに頷いてから厩舎を出ていった。