カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
「そんなに気になるんだったら、モニカに直接聞いてみればいいんじゃない?」
肩を竦めながら、エルヴィンはとぼけた声で言った。
ふたりに接しているエルヴィンからすれば、なんだか微笑ましくも馬鹿馬鹿しい。リュディガーは弟相手に嫉妬を丸出しにするほどモニカを愛しているし、モニカもモニカで夫に好かれているか思い悩むほどリュディガーに恋をしている。
こんなに想い合っているふたりに、自分の入る隙間なんかこれっぽっちもないと痛感しているのだ。
それなのにリュディガーときたら、いつもの余裕も威厳もかなぐり捨てて、これではまるで恋に夢中なただの青年だ。そこまで情熱を傾ける兄を応援したい気持ちもあるが、モニカに失恋した身としては、やはり楽しい状況とは言い難い。
「それじゃあ、僕はこれで」
飄々とした態度を崩さず部屋から出ていくエルヴィンに、リュディガーは苛立ちを募らせる。
不敬なように見えても、エルヴィンとて『名門』一家の大公だ。本気でモニカに手を出すなどあり得ないことぐらい、リュディガーにも分かっている。
しかし、それでも不愉快極まりないのだ。モニカが朗らかなエルヴィンと笑い合い、ふたりきりで楽しい時間を過ごしたであろうことが。
それにどんな立場であっても、心までは縛れない。実際にエルヴィンはモニカに憧れていると宣言したし、モニカだって彼を悪く思っていないことは明確だった。
リュディガーの心はエルヴィンと、モニカと、そして自分への苛立ちで埋め尽くされる。
(俺がエルヴィンのように気さくに接することが出来たなら……あなたは俺だけを見て微笑んでくれるのか、モニカ)
そんな馬鹿げたことまで考えてしまう。
深く溜息を吐き椅子に座ると、リュディガーは机に肘をついて頭を抱えた。
あと数ヶ月でモニカは正式な妻になるというのに、これっぽっちも手に入れた気がしない。それが悔しくて悔しくて、リュディガーは机に積まれた書類にいつまでも目を通すことが出来なかった。