カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】

そんな彼の怒りが噴出してしまったのは、翌週のことだった。

リトリア語の講師に来たというのにリュディガーは、何故エルヴィンとふたりきりで話をしたのかと、モニカを問い質してしまう。そして。

「慎みのないことをするんじゃない。あなたは俺の妃になる身だ。他の男と親密な時間を過ごすことが良くないことぐらい、もう子供じゃないんだから分かるだろう?」

あげくにはきつく彼女を咎めてしまった。

「……申し訳、ございません……」

まるで屈辱を受けたようにモニカは顔を赤くし、掠れる声で謝罪を紡いだ。顔を俯かせた彼女の細い肩が、スカートを握りしめる手が、哀れなほど震えている。

「ごめんな……さい……、っ……」

重ねられた謝罪は、涙声だった。

リュディガーの中でどうしようもなく苦しい気持ちが渦巻く。

泣かせたくなどない、傷付けたい訳がない。なのに、責めずにはいられなかった。けれどモニカの泣く姿はリュディガーに安息を与えるはずもなく、罪悪感ばかりが積もってゆく。

しかもその涙はエルヴィンを想って泣いているのだと思うと、優しく慰めてやる余裕すらもなかった。

「……そんなにエルヴィンとの仲を咎められるのがつらいのか」

落胆を通り越し、絶望にも近い呟きを零す。

名君と称えられ四千万の民の頂点に立つ身でありながら、たったひとりの女の心をどうしようも出来ない自分が、滑稽なほど情けない。

ふたりきりの勉強部屋には静寂が流れ、時々モニカのこらえきれない嗚咽だけが響いた。

(……いっそ、ここで抱いてしまおうか)

あまりのやるせなさに、そんな思いがよぎった。

心が手に入らないのなら、身体だけでも無理やり手に入れてしまおうか、と。このやり場のない気持ちを欲望と共にぶつけたら、少しは楽になれるだろうかと、リュディガーの満身創痍な恋心は救いを求める。

しゃくり上げるたびに揺れるモニカの無防備な肩が、やけに扇情的に見えた。

(……嫌われようと恨まれようと、永遠に彼女を独り占め出来るのなら――それも悪くない)

「いっそ、小鳥のように黄金の籠にでも閉じ込めてしまおうか。俺以外の誰にも懐かないように」

ふと、歪んだ欲望が口を突いてしまった。
あまりにも自分勝手な独占欲に、ハッと我に返る。

モニカの怯えた表情見て自分の失言に気付き、リュディガーは激しい自己嫌悪に襲われた。
 
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