カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
「……こんな状態で授業は出来ないな」
リュディガーは手にしていた教本を机に置くと、モニカに背を向けて部屋から出ていった。
扉を閉めて、深く息を吐き出す。これ以上嫌われることをしてどうするんだと、自責とも自嘲ともつかない溜息だった。
「陛下、どうかされましたか」
近くの部屋で待機していたブルーノが、扉の音を聞き付けてすぐに出てきた。
「なんでもない。授業は一時間後から始める。……少し、ひとりにしてくれ」
そう告げて、リュディガーは頭を冷やしに中庭へと向かう。
初めて入ったユーパリア城の中庭は、花壇に四季咲きの薔薇が鮮やかに咲いていた。きっと丁寧に手入れされているのだろう。
けれど今は目に映るどんな景色も、心を慰めてはくれない。
リュディガーは空を仰ぐように顔を上げる。三階にあるモニカの勉強部屋の窓が見えた。
こんなに傷付き苦しくても、彼女がそこにいると思うだけで胸が疼く。会いたくてたまらなくなる。
自分は恋という魔物に囚われ魂まで蝕まれているのだなとぼんやり思いながら、リュディガーは薔薇の花壇の真ん中で、いつまでも部屋の窓を見上げ続けた。