カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
輿入れの儀式三日目。
リュディガーはこの日、ゲオゼルとチェルシオの国境にあるゲオゼル公館に待機していた。明日の昼、ここでモニカと落ち合い花嫁入国の儀式が行われるのだ。
夕刻、明日に備えて打ち合わせをしているリュディガーの元に、花嫁の従者のひとりが早馬で報告にやって来た。
「モニカ様は予定通り司教館へお着きになられました」
「そうか。それで、花嫁の様子はどうだ」
報告を心待ちにしていたリュディガーは打ち合わせを一旦中断させると、従者の話に聞き入った。
「各都市での御挨拶は順調に済まされております。ただ少々お疲れのご様子で、食事にはあまり手を付けられていません」
予感は的中してしまった。やはり、とリュディガーは片手で額を押さえる。
モニカは疲れや不満を表には出さない。それを周囲が感じとるということは、よほど困憊しているということだ。
リュディガーはしばらく考えた。今、自分がすべきことを。
(何か元気が出そうなものを差し入れさせるか? 彼女を励ませるような女官を向かわせるか? 明日の儀式の時間をずらして、彼女に少しでも長く睡眠をとらせるか?)
口を噤み考え込んでしまったリュディガーに、打ち合わせの席についていた臣下たちも緊張を漂わせる。
「ブルーノ」
呼び掛けられて、近くの席にいたブルーノが「はい」と返事をする。
「この後の予定はどうなっている」
ブルーノは秘書官から革表紙のスケジュール表を受け取ると、内容を確認してからリュディガーに告げた。
「明日の手順の確認をされた後は晩餐会となっております。翌朝は五時より起床となりますので、晩餐会の後は急ぎの書類のみ目を通して頂き、今夜は早めの就寝予定を組ませて頂いております」
「明日の手順確認はいい。もう頭に叩き込んである、ぬかりはない。書類の確認は翌朝にまわす。晩餐会は中止するが、公館長や辺境伯らに一番いいワインを振る舞ってやってくれ」
そう命じるとリュディガーは椅子から立ち上がり、侍従長に馬の用意を命じた。臣下達が一斉にざわつく。
「へ、陛下? どこかへお出かけになるおつもりですか? 明日は大事な入国の儀式ですぞ!」
「お考え直しください! 婚礼を目の前にして、もし陛下の御身に何かあったら一大事でございます。各国の王侯らも、祝賀式典のためにすでにこちらへ向かわれているのですよ」
けれどリュディガーは強い決意を籠めて、彼らに瞳を向けた。