カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】

心の多くを占めているのは、五年ぶりの再会で極度の緊張に陥っている彼女を可哀想だと思いやる気持ちだ。けれど、落胆がわずかにあったのも否めない。

緊張、というよりはまるで怯えているようだ。初めて会ったとき、窓から眺めるリュディガーの視線を避けていた姿を思い出す。

あのときも同じだった。煌めくアンバーの瞳に怯えの色が浮かぶたび、リュディガーの心は傷付いた。

どうしてそんな目で見るんだ、俺はあなたを傷付けたりしないのに。何度も心でそう叫んだ。あのときの傷みが、チクリと懐かしさと共に胸を刺す。

モニカがあまりにも緊張しているのを見兼ねて、彼女の父が応接間への移動を開始した。

家令の案内に続き廊下の奥へと歩いていくと、モニカがついてきていないことに気付いた。

振り返ると、彼女はなんとエルヴィンと親しげに会話をしている。

まるで旧友との再会のようにほがらかに笑い合い、おまけにモニカはエルヴィンに何かを言われ頬まで染めていた。

その光景にリュディガーは無意識にこぶしを握りこむ。

自分の感情を抑えつけることは、幼い頃から人の上に立つ訓練を重ねてきた彼にとって容易いことだ。皇帝はいつどんなときであっても、冷静でいなければいけない。

けれど、そんな長年の努力も、モニカを前にするといつも崩れ去ってしまいそうになる。

五年前も彼女が気になり過ぎて勝手にイライラしたあげく、感情的に怒鳴ってしまったことがある。

後になって思えばなんと未熟だったのかと自嘲するけれど、今のリュディガーにはそのときの気持ちがありありと蘇ってきていた。

まさか、皇帝という立場になり二十五歳にもなって、求婚の場で婚約者を怒鳴るなど出来る訳がない。けれど、もし許されるのなら今すぐモニカの元へ駆け、彼女が誰とも話さないように腕の中へ閉じ込めてしまいたい。馴れ馴れしく声をかけている弟に、きつい罰を据えてやりたいとさえ思う。

そんな燃え上がる悋気を抑え込み、じっとモニカを見つめる視線に気付いたのだろう。家令やモニカの父が慌て出し、すぐに侍女が声をかけに行った。

侍女に促されモニカは焦ったようにこちらへ来たが、リュディガーの胸にはどうしようもない苛立ちが芽生えてしまった。


 
< 3 / 32 >

この作品をシェア

pagetop