カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】

司教館でのあいさつは、元気を取り戻したモニカとふたりで無事に終えた。

司教たちを随分驚かせはしてしまったけれど、きっと数年後にはいい思い出になるだろうと、モニカと笑い合った。

彼女が安心して眠るのを見届けてから、リュディガーは公館へ戻る準備をする。

「陛下、馬の準備が整いました」

「分かった。今行く」

小さくノックをして扉越しに伝えてきたブルーノに、小声で返事をした。灯りを落とした寝室には、モニカの小さな寝息だけが微かに聞こえた。

ベッドに腰掛けていたリュディガーは、モニカが寝付くまで握ってやっていた手をそっとほどいて立ち上がる。

「また明日会おう。俺の最愛の花嫁」

そう小さく告げて、リュディガーは眠るモニカの額にキスを落とした。

(寝ている間にキスをするのは、これで二回目だな……)

数カ月前、疲労で寝込んだ彼女を見舞ったとき、早く治るようにと祈りを籠めてこっそりキスをしたことを思い出す。

次のキスは、祭壇の前で夫婦として交わすことになるだろう。その瞬間のことを考えると、リュディガーの胸は恋する少年のようにドキドキと高鳴った。

眠るモニカの髪をもう一度ゆっくりと撫でてから、リュディガーは静かに寝室から出ていく。

司教館から出ると、もう月は随分と高くに上がっていた。

「さて、急いで帰れば日の出前には十分間に合うな」

「はい。少しではありますが、お休みされる時間も取れるかと思います」

「お前まで付き合せてしまって悪いな、ブルーノ。いつも苦労を掛ける」

ロザリーに跨ったリュディガーが眉尻を下げて微笑みかければ、ブルーノは馬上でこうべを垂れた。

「わたくしは陛下にお仕え出来るだけで光栄です。それに僭越ですが、モニカ様に夢中な陛下を見ていると、側近としては応援せずにはいられませんので」

慇懃ながらおどけて言ったブルーノに、リュディガーは目をしばたたかせてから頬を赤くする。

「……参るな。応援されたくなるほど、俺は恋にもがいてるように見えたか……」

口元に手を当ててぼそりと呟くと、ブルーノ始め衛兵たちも和やかに微笑んだ。

夜は空に満天の星を湛えて、静かに更ける。

やがて朝日が昇り、新しい一日を告げるだろう。

明日は今日よりもっと、モニカと心が近付くかもしれない。いつか愛しい妻と心が結ばれる日を夢見て、星降る空の下リュディガーは馬を走らせた。



 
< 30 / 32 >

この作品をシェア

pagetop