カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
「だが、今のあなたが俺をどう思おうと、この結婚を取り消すつもりはない。俺の意志は固い。――あなたには不幸なことかも知れないがな」
開いた瞳でモニカをきつく見つめ、決意を籠めて言った。
リュディガーに好意がないどころか怯えているだけのモニカにとって、この結婚は酷かも知れない。ましてや彼女がエルヴィンに惹かれているのだとしたら。
けれど、それでもあきらめられないと、リュディガーは告げた。もうモニカを手放すことは絶対に出来ないと。
向かいの席でモニカは、人形のような顔にショックの色を浮かべた。やがて生気を失くした瞳に、じわりと硝子のような涙が浮かんでくる。
顔を俯かせ、彼女は泣いてしまった。唇を噛みしめ、しゃくり上げるのをこらえてはいるが、スカートの上で重ねている手が震えている。
「……泣くほど嫌か、俺との結婚が」
ここまでモニカに拒絶を示されたことに、リュディガーの心はさらに深い傷を負う。
こんなに自分を嫌う少女を、いっそ嫌いになれたら楽だろう。けれど悲しいことにそれは出来ない。
今でさえ、目の前でリュディガーとの結婚が嫌で泣いているモニカを、美しいと感じてしまうのだから。
震える手を握りしめ、涙に濡れる頬を撫でてやりたいと思う自分が滑稽で悲しかった。
リュディガーは嘆息すると、窓の外の景色に視線を移した。朝から降り続いている雨はやむ気配を見せない。
重々しく曇り、涙のような雨を落とす空を、まるで自分たちの心のようだと思った。