カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない【番外編】
「お前の結婚相手は皇帝である俺が適切に選んでやる。だから余計なことを考えるな」
さっさと話を切り上げたくてそう言い切り再び新聞を手に取ったが、遠慮のないお喋りはまだ続く。
「違うよ、兄さん。僕は身分や家柄でモニカを花嫁にしたいんじゃないんだ。彼女自身が好きなんだよ。野に咲く百合のように清麗で、それでいてはにかむと愛らしくて。モニカは最高に魅力的な女の子だ。今日会って、それを再認識したよ」
「……だからなんだ、お前にモニカを譲れと言うのか!」
苛立つ台詞が、咄嗟に口を突いてしまった。
苦々しい表情をリュディガーが浮かべると、ずっと部屋の隅に黙って待機していたブルーノが一礼をして間に入った。
「まもなく着港のお時間です。そろそろ下船の準備をなさってください」
「ん、もうそんな時間か 」
エルヴィンは部屋の壁掛け時計を見上げて、椅子から腰を上げる。
「それでは、失礼いたします。皇帝陛下」
弟から大公の顔に戻って、エルヴィンは部屋から出ていった。客室にはブルーノとふたりだけになったが、リュディガーは眉間に刻んだ皺を消せない。
リュディガーはハァっと嘆息して椅子から立ち上がり、ブルーノの差し出した外套を羽織った。
なんだかモニカと再会してから、自分の未熟さに呆れて溜息を吐くことが増えた気がする。
弟に感情的になって反論するなどいつ以来だろうか? いや、初めてかもしれない。
国家を背負うものに、自己の感情や欲求は必要ない。そう教えられ、それに則り努力してきた日々はなんだったのかとさえ思う。
己を省みるものの、リュディガーの頭にはエルヴィンが夢見るように語ったモニカへの賛辞がいつまでも残り、しばらくの間彼を苛立たせ続けた。