あくびがとまらない
放課後というのはいい。

みんながいなくなった教室を独り占めできるからだ。

多少叫んだって白い目で見られることはないし(叫びすぎると見つかって先生に怒られるけど)。

1ヶ月二一度ほど回ってくる日直の仕事はめんどくさいけれど、この空間は気に入っている。

日直の仕事をだいたい済ませて、自分の席に座った。

あとは日誌を書くだけだ。


「声出していこーぜーー!」

窓の外から聞こえてくる野球部員の声は
真っ青な空に吸い込まれていった。


ガリガリとシャーペンが日誌を引っ掻く音だけが教室に響く。
あぁ、幸せ。

この誰にも邪魔されない空間がずっと続けばいいのに。



その瞬間、教室の扉が勢いよく開いたと思うと

「あ、誰かおる」
「え…」

あれぇ?と呟いた上杉君が立っていた。


「何してるん?」
「…日誌書いてる」
「あ、そう」

自分で聞いてきた割には興味のなさそうに返事をする上杉くん。

自分の机をゴソゴソと荒らしはじめた。

「なあ、自分名前なんて言うん?」

3時間目、現代社会。
政治についてならいました。

「なあ、自分名前なんて言うん??」

4時間、化学
酸と塩基について。…難しかったです。

で、あと…なんだっ、

「なあ!」

バンッと私の机が振動して
前には上杉君が立っていた。

「え、…わたし?」
「そうや。ずっと名前何て聞いてるやん」

自分って言ってたくせに…

大阪の人の「自分」が「あなた」という意味ということを知るのはまだ少しあとのことだ。


「…高橋舞」
「そーなん。高橋さんか。よろしくお願いします。俺は上杉晴太郎です。」

深々と頭を下げて上杉くんは二度目の自己紹介をした。

「知ってるよ」
「あ、そう。なら良かった」

ニコリと笑って、前の机に腰をかける。



「なぁ、高橋さんって死にたいとか思ったことない?」


< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop