スーパーアイドル拾いました!
 練習を終え、自転車に乗り門へ向かうと、待っていた寧々が手を振った。
 
真は自転車から降り、寧々と並んで歩いた。


「男バレの調子どう?」


「うん、まあまあかな…… 後は怪我しないで、ベストの体制で望むだけだね…… 女バレは?」


「うん。色々揉めていたけど、今は大会に向けてやっと纏まって来た感じ。来週は遠征でしょ?」


「うん。三日間ね」


「この大会で、私達も引退だね……」


「ああ…… 悔いのないようにしなくちゃな」


「そうだね。真は、大学からの推薦来てないの?」



 実は大学の推薦が来ていたが、このままバレーの世界へ入るつもりは無かった。
 勿論バレーは好きだが、プロになってやって行く力が自分に無い事は十分に分かっていた。
 でも、大学へは行きたい。
 医者になりたいからだ…… 

 しかし、国立へ入れる程の頭は無い。

 私立となると金が掛かる。

 なんとか、奨学金を手にしたいのだが、それでも母に負担を掛けてしまう事に、胸が苦しかった。


「うん…… 推薦は断るつもり……」


「えっ。どうして?」

 寧々は驚いた顔を真に向けた。


「うん…… 医者になりたいからさ……」


 何故だか寧々には自分の気持ちを素直に話せる。


「そうなんだ…… 真なら、いいお医者さんになれるかもね……」


「えっ」

 真は寧々の言葉に、気持ちが浮だった。


「でも、とにかく今は総体がんばろう!」


「おお!」


 真と寧々は目を合わせ、大きく肯いた。


 寧々の家は、真のアパートより少し遠いが、帰りは暗くなる事が多いので、真はいつも寧々を送っていた。


 真はふと、歩道で辺りをキョロキョロしている中年の男性が目に入った。
 ワイシャツにスラックスという姿だが、この辺の人のような気がしなくて、何かが気になり見入ってしまった。


 寧々が心配そうに真の顔をのぞき込んでいた。


「どうかした?」


「いや、別に……」

 
 真は、海斗の存在が、自分の中の何かを大きく変えて行くような、不安とも期待とも違う複雑な感情が胸の中に静かに落ちた。


 何の根拠も無いが、真は目の前の男の顔を、しっかりと目に焼き付けた方がいい気がした。

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